渡辺早季という女性の手記という形で語られる物語です。
上巻
早季が育ったのは、神栖66という町だ。
7つの郷からなる町で、人口はおよそ3千人。
水路が張り巡らされ、人々はカヌーで行き来する。
成人人口の約半数が教育関連の仕事についており、
子供たちは豊かな自然とともに穏やかに生活していた。
どうやら、この世界は現代から数千年後、
いったん文明が滅びたあとらしい。
人々は呪力という超能力を備えており、
子供たちはそれを会得してから小学校を卒業する。
早季の友達は4人。真理亜、守、覚、瞬だ。
真理亜は遠い祖先が外国の人らしく、赤い髪をしている。
実は他にも友達がいた記憶があるのだが、
どうしても思い出すことができない。
とにかく、5人は仲良く成長し、
全人学級という中学校では同じ班として呪力の勉強を続けている。
彼らの社会では、
妊娠に及ぶ行為以外の性的接触が禁止されていない。
むしろ奨励されている。
同性愛もタブーではない。
覚は瞬を愛し、早季も瞬に恋をしつつ、真理亜と情交を結んでいる。
ある日、5人はカヌーに乗って校外学習に出かける。
彼らは禁止された区域に入り、
古代の図書館の端末だという不思議な生き物に出会う。
その生き物、ミノシロモドキは、
古代の人間は皆が超能力を持っていたわけではないという。
超能力を持った人間が現れ、
持っていない人間を虐殺した過去の歴史を知り動揺する5人。
彼らが性的接触を禁じられていないのは、ストレスを和らげ、
人間が持っている攻撃性を低めるためだと説明される。
逃げ出す途中、バケネズミという
人間ほどの大きさのげっ歯類に襲われ、
覚と早季がつかまってしまった。
バケネズミは、人間に仕えるものだ。
下等なげっ歯類だが、ある程度の知性を持っている。
町で労役をし、人に逆らわない限
りはコロニーでの生存を許されている。
逆らったときにはコロニーは全滅させられるのが定めである。
早季たちを襲ったのは外来種であり、
人間に忠誠を誓うスクィーラというバケネズミに救われ、
いったんは無事に町に帰ることができた。
しかし、異変は続く。
ある日、瞬の呪力の暴走し始め、
町の人々が恐れていた「業魔」に堕ちてしまう。
呪力が理性で抑えきれなくなり、
攻撃性を持った人間のことをそう呼ぶのだ。
瞬の存在は町から消され、彼に淡い恋心を抱いていた早紀も、
愛し合っていたはずの覚も、彼の記憶を失ってしまう…。
下巻
渡辺早季には親しい友人が3人いる。
友人たち。真理亜、覚、守。
もう一人誰かいたはずなのに思い出すことができない。
早季たちは昨年校外学習に出かけ、そこで禁忌の知識を得た。
禁止されている地域で、
ミノシロモドキという古代の図書館の端末から聞いたものだ。
かつて人間は凶暴性を備えており、互いに虐殺しあった。
早季たちには、同類を殺すと
自らも死に至るというプログラムが組み込まれている。
町の人たちは、人間に備わっている攻撃性を異常に恐れているのだ。
そのため、異変が起きた子供を
人知れず抹殺していることに早季たちは気がついていた。
そのような知識を得たものが許されるはずもなく、
まもなく守が「排除」の対象になる。
町から逃げ出す守と、彼を助けるためについてゆく真理亜。
早季と真理亜は再び会うことはなく、
大人になった早季に真理亜たちの死の知らせが届く。
夏祭りの日、神栖66はバケネズミの襲撃を受ける。
なんとそれは、かつて早季たちを助けた
スクィーラが率いる軍だったのだ。
下等動物とさげすんでいたバケネズミたちは、
町の水路すら利用する、見事な作戦のもとに攻撃を加えてくる。
しかし、バケネズミには呪力がない。
呪力で対抗しようとした人間たちだが、
バケネズミ側に呪力を使う人間がいるのを知り、
町は恐慌状態になった。
呪力を持ち、攻撃性を備えた人間。
悪鬼と呼んで恐れていたものが目の前にいる。
呪力で人間を虐殺している様子に、町は絶望にとらわれる。
決死の思いで町を脱出した早季は、死の都市東京へ向かい、
呪力に対抗するサイコ・バスターという
古代の武器を手に入れようとする。
ヒルやダニに襲われながら、
なんとかそれを手に入れた早季のもとへ、悪鬼が現れる。
赤い髪の少年、それは真理亜と守の子供であった。
絶望する早季に、懐かしい声がささやく。
少女時代に恋をした少年、瞬の名前を、早季は思い出す。
読んでいて、その世界観に打ちのめされる。
バケネズミには嫌悪感を抱くが、彼らにも言い分がある。
生殺与奪を人間に握られ、
コロニー同士の戦争でさえ事前の許可がいる。
逆らったら皆殺しである。
そのような中、バケネズミの解放を願って立ち上がったスクィーラ。
だが、兵士を薬で中毒にさせるなど、
残虐性は受け入れられるものではない。
しかし、そのような背景があることで、
人間たちの傲慢な正義が醜くみえるのも事実である。
また、ここではあえて書かなかったのだけど、
バケネズミがどうして知性を持っているのか。
消えていった、超能力を持たない人間はどこへ消えたのか。
それを知ると、人の醜さに、まさに反吐が出そうになる(失礼!)
人間の業を、いやというほど見せられる作品。
力作。これを読まないのはもったいない。
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