中山可穂という作家を、
知ってはいたけど手に取ったことがなかった。
読んでみようという気になったのは、
メールをやりとりしている方に教えてもらったからです。
今まで私は、どこか今の小説をバカにしていたところがある。
あざとい感動量産型、映像化を見据えた娯楽型。
楽しいけれど、それなり、それなり、と考えていたのだ。
ああ、違うんだな、と思った。
こういう小説を書いている人はいるんだな、と思った。
人の狂気、恋愛、読んでいて、
現実から乖離しそうになる緻密な文章。
寡作な作家さんだそうですが、
なるほど、こういう文章を書くというのは身を削ることだろうと得心がいく。
タンゴをモチーフにした短編5編。この作品に2年を要したそうだ。
本日は、表題作になっているサイゴン・タンゴ・カフェをご紹介。
雑誌記者の孝子は、取材のためにベトナムのハノイを訪れていた。
仕事を終えて、
しばらくは有給休暇をとって旅を楽しむつもりである。
そのカフェを見つけたのは偶然だった。
ハノイの市街にある、小さなカフェ。
タンゴの曲がかかるその店のオーナーは、
日本人の小説家の女性だった。
彼女、津田穂波はもう20年そこに住んでいるという。
日本からは失踪するようにして消息を経っていたが、
今でもコアなファンを持っている。
孝子の上司も、かつて穂波を担当していたことがあり、
その行方をずっと追い続けていた。
穂波は、美しい恋愛小説を書くが、寡作な作家であった。
長く筆を折っていたが、
ある日、狐塚という女性編集者が彼女の元を訪れる。
穂波は同性愛者であった。そのことは世間に公表してある。
そして狐塚も同じセクシュアリティであることを穂波に告白する。
穂波は狐塚の中に美しい湖があると言い、
狐塚はその湖で穂波を憩わせてあげたい、と言う。
こんな恋愛の表現があるだろうか。
編集者と作家として、人間として、二人は愛しあい、
一つの作品を生み出す。
しかし、その後狐塚は編集者であることをやめ、穂波は失踪する。
狐塚は、編集者としての洋々たる未来を捨てたわけであり、
穂波にしても、
作家としての新境地を拓いたばかりの出来事であった。
さまざまな憶測が飛んだが、二人はこの20年、
ついぞ文学界に姿を見せることはなかった…。
タンゴを踊ることで愛情を交換する。
この作家がどうしてタンゴに惹かれたのかは私にはわからないが、
しかし、恋愛小説にタンゴの味付けというのは、
非常に深いものだとわかった。
まあそれにしてもあれですわ。
文章そのものが美しい作品なので、
本当はこういうあらすじの紹介って野暮なのよね。
ぜひ、本を手にとってご堪能くださいませ。
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