交通事故で妻子を失った雪藤は、
いまだその痛みから立ち直れずにいる。
仕事場でもミスを連発してばかりだ。
そんなある日、雪藤は不思議な女性に出会う。
落とした定期入れを拾ってくれた天美遥。
彼女は雪藤のことを何も知らないはずなのに、
あなたがかわいそう、と言って泣いていた。
数日後、遥の働く喫茶店を訪ねた雪藤は、
遥が不思議な力を持っていることを知る。
人の物に触っただけで、
持ち主が何を考えているのかがわかるというのだ。
共感を寄せてくれた遥に信頼を抱く雪藤。
同僚の女性を通して知り合った雑誌の編集者と、
彼女を会わせることにする。
遥は両親を亡くしていた。医師だった父の志を継いで、
人の役に立つことがしたいと考えていた遥。
金儲けなどには興味がないが、マスコミを通じて訪れる人に、
遥は真摯に対応する。
遥の能力は本物だった。やがてたくさんの人が集まり、
彼女を支たいという人が自然に集団を作り始めた。
宗教などではない。雪藤はそう思うが、
だんだんと宗教団体の趣を帯びてくる遥の支持者たち。
会の運営には経費がかかる。持ち寄りで済むはずもなく、
訪れる人からお金をとる、
また、スポンサーを得ることなどもしながら
だんだんと会はまとまっていく。
会社をやめ、「コフリット」という名前のついた
集団のまとめ役になる雪藤。
彼の他に、笠置という男もいつの間にか
コフリットにやってきて、重要な発言をするようになった。
雪藤は、如才ない笠置に信頼を置くことができない。
美しい遥の容姿だけに惹かれてやってくる人間。
会を大きくするために間違った手段に走る若者たち。
そんな人間が、雪藤は許せない。
雪藤にとって遥は、自分を救ってくれた神であった。
純粋な思いは結果、
まわりの誰に対しても不信感を抱くことにつながっていく。
孤立する雪藤。
そして最後は一気に破綻へなだれ込んでいく。
破綻劇の鍵を握る人物は、
最初から伏線が張られているのでこれは読んでのお楽しみ。
遥の失踪、雪藤の落胆。
しかし作者は、最後に優しい結論を用意してくれている。
人は弱いな。寂しいな。
そんなことを感じさせてくれる。読み応え十分。
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タグ:貫井 徳郎

