2008年03月16日

乳と卵




第138回芥川賞受賞作品。
ストーリーはいたってシンプル。

主人公は大阪出身で、現在は東京で暮らしている。
一人暮らし。どうやら会社員らしい。

夏の暑い時期、主人公も休みなので多分盆の時期なんだろう。
姉の巻子とその子供、緑子が上京してくる。
主人公のアパートに泊まって、
巻子は豊胸手術を受けると言っている。

その母親に、娘の緑子は何か思うところがあるらしく、
ここのところ直接口を利くのを避けている。
用事があるとノートにペンで字を書いて母に示す。

文章が非常に特徴的。

「わたしは一瞬迷ったが、なあ、緑子は喋らへんだの、と訊くと、
緑子はちょっと間をおいて頷くので、
それは巻子に対しての何らかの抗議的な? 
すると<別に>と書き、続けて<そんなんちゃう>と書き、
喧嘩?と続ければ首を振って…」

ってな感じ。とにかく読点までが恐ろしく長く、
時々地の文に関西弁が入ってくる、
ちょっとばかり疲れる文章である。

まあいいや。とりあえず読みすすめると、
巻子がこれまたちょっと困ったお母さんで、
銭湯に行っては人の体を眺め回し、「私の胸、どう?」と妹に尋ね、
翌朝は一人で出かけてしまって戻ってこなくなったりする。
こいつにも疲れる。

娘の緑子は、主人公と花火を買って母親の帰りを待っている。
遅くなって戻ってきた母は、
離婚した元の夫に会ってきたとほろ酔い加減である。

緑子が感情を爆発させ、台所に捨ててあった
賞味期限切れの卵を自分にぶつけて割り、卵まみれで叫ぶ。

「む、胸をおっきくして、お母さんは、何がいいの
私を産んで胸がなくなってもうたなら、しゃないでしょう
あたしは、お母さんが心配、お母さんが、大事」

豊胸手術を受けた人間が、自殺しているというデータを
いつの間にか手にしていた緑子は、母を心配していたのだ。

巻子も卵を手にとって、自分の体にぶつける。
お母さん、ほんまのこと言うて、という娘に泣きながら応える。

「緑子、ほんまのことってね、あると思うでしょ
でも緑子な、ほんまのことなんてな、ないこともあるねんで」

巻子。場末のホステスで、生活はぎりぎり。
深く物事を考えている風でもなく、
娘の教育に熱心というわけでもない。
だが、この親子の間の感情の揺れに、心を動かされる。

文章が独特だし、主人公の生理のことなど、
かなりリアルで男性にとっては
グロテスクに思えるだろう描写もある。
しかし、私はこの作品が好きだ、と思った。

胸がふくらんでいく。生理が始まる。女になっていく不安と、
母の豊胸手術。
思春期の女の子の心の揺れが、私には覚えのあることで、
読み進むうちに緑子が愛しく思えてくるのだ。

最後には、へんてこな文章が気にならなくなっている。
読んでいる今はまだ寒い三月なのに、
じっとりと汗ばんでくる気がするから不思議。






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