福岡県と長崎県を結ぶ県道263号線には、
三瀬峠という峠がある。
そこで、若い女性の死体が発見された。
女性の名前は石橋佳乃。
彼女を殺害したとして警察に逮捕されたのは、
長崎県の土木作業員、清水祐一であった。
だが、佳乃の同僚は、
佳乃が最後に会ったのは彼女の恋人、増尾圭吾だと証言した。
実際に、佳乃を殺したのは祐一である。
これは文頭でも述べられている。
しかし物語は、増尾という男を佳乃の殺害現場に置くことで、
どちらが本当に殺したのか、
中盤までよくわからない構成になっている。
ミステリーとしての要素が小説を盛り上げる。
と同時に、祐一と増尾という同世代の男性を対比しながら、
世の中の不条理、人間の強さと優しさ、孤独を
著者は書こうとしている。
佳乃と祐一は携帯電話の出会い系サイトで知り合った。
彼について、佳乃は生前、「
セックスだけが上手で、退屈な人」と言っていた。
一方増尾は資産家の息子である。佳乃は同僚に、
増尾と付き合っていたと言っていたが、事実はそうではない。
佳乃が一方的にメールを送るといっただけの関係であった。
祐一は、幼い頃母親に捨てられ、祖父母の家で暮らしている。
裕福な暮らしではない。無口で車だけが趣味という青年だ。
友人は祐一の性格を評してこう言う。
「祐一はグラウンドにもう何日も落ちたままのボールのようなもの。
子供に一日中使われて、転がって、
また翌日には他の誰かに蹴られて…。
でも、それが苦痛じゃないんですよ」
祐一は、佳乃を殺害した後、出会い系で光代という女性に出会う。
光代は30歳。結婚する予定もなく、
双子の妹と二人で暮らしている。
祐一と光代はお互いに強く惹かれあい、
光代のすすめで逃亡をくわだてた。
ラブホテルを泊まり歩きながら、
見えない明日にあがく二人だが、そんな生活が続くわけもなく、
警察の手に落ちてしまう。
逮捕されるとき、祐一は
「俺はお前が思っているような男じゃない」と、
光代の首に手をかけた…。
祐一は、増尾のような「勝ち組」の人間ではない。
ずっと人のために犠牲になるような生き方をしてきた若者だった。
一方増尾は、佳乃の死すら
友人との笑い話にして友人に話すような振る舞いをする。
一体、悪とは何なのか。それを問いかける作品である。
佳乃、祐一、増尾を中心にして、いろいろな人物が登場し、
事件を語る。一人一人の人生が丁寧に描かれているのもよい。
ずっしりと何かが残る。
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