2008年06月09日

母べえ






「母べえ」というタイトルを決めたのは、
山田洋次監督だそうだ。
もともとは「父へのレクイエム」というタイトルで、
女性ヒューマン・ドキュメンタリー大賞を受賞した作品。

山田監督は、満州で亡くなった竹内浩三という詩人をモデルにした映画を撮りたいと考えていた。
そしてその資料を多く持ってい著者に会う。

もともとの知己だったこともあり、
あの時代の参考にと渡された原稿に監督は目を通した。

著者は父のことを書いたが、山田監督の頭には、
戦争を耐える母と娘たちのことがイメージとして浮かんだ。

だから、父ではなく母が主になるタイトルなんだろう。

野上家では、それぞれの名前に「べえ」をつけて呼び合っていた。
姉は初子だから初べえ、著者は照べえ。
母べえとは母親のことである。

昭和12年、ある冬の朝。父が特高に連行される。
家族はまだ眠っている時間だった。
跳ね起きた父の足の白さが未だに忘れられないと著者は言う。

父が逮捕、拘禁されたのは治安維持法によるものである。

外国の書籍をたくさん持っていたことは文中から伺える。
共産主義者だったということなのだろうか。

とにかく、思想の自由が保障されている現代では
ありえない罪のために、野上家では父親のいない生活が始まる。

父と母は頻繁に手紙を交換している。

家族を気遣い、本を差し入れてほしいと書く父。
しかし本を差し入れにいっても、
書き込みなどがあると警察がつき返してくる。

仕方がないので、家族総出で書き込みを消しごむで消す。

同居している叔母さんの恋人が手伝ってくれるのだが、
「俺の目はみなさんのような節穴と違うからね。レンズが良いの」
などと冗談をいい、なんだかほのぼのした雰囲気である。

大人にとっては陰鬱な思い出なのかもしれないけど、
これ、語り手が子供というのがとてもいいんだよね。

また、著者の末っ子らしいおっとりした性格も、
この物語がホームドラマとして読まれるのに一役買っていると思う。

戦争が激しくなり、父からの手紙はところどころ
検閲で抹消されている(多分墨で塗られているということだと思う)。

それでも、著者は父に手紙を書く。
「みんなが父ちゃんが帰るのを首を長くして待ってるからね」。

そして、手紙を出してきた帰り、一通の電報を受け取る。
「ノガミイワオ ケサ シキュウ シス」



ネタばれを覚悟でいうと、実際には父は亡くなっていないそうだ。

作品を応募する際に、多少のフィクションは可となっていたので、
ドラマチックなラストにしたようだ。

これを不服とする意見がアマゾンのレビューに載っていた。
同意する部分もあるが、
私はそれでも、死ななくてよかったと思った。

長い文章ではないのですぐに読める。本編もさることながら、
山田監督の寄せた文章がいい。
これだけでも読む価値ありの一冊。







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posted by momo at 07:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 話題の小説系 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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