2010年12月26日

スリー・カップス・オブ・ティー






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スリー・カップス・オブ・ティー  グレッグ・モーテンソン
¥ 1,995  サンクチュアリパプリッシング(2010/3/25)

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1993年、アメリカ人のグレッグ・モーテンソンはK2の登頂に失敗、
下山途中に山道に迷い、パキスタンの小さな村にたどり着いた。

グレッグは父の仕事の都合でアフリカで育った。妹は難病をわず
らっており、その影響もあって、成人した彼は看護師の資格を手
にしていた。

パキスタンの小さな村、コルフェ村で彼は村人に治療を授ける。
村人と心通じ合った彼は、村に学校がないことに愕然とする。小
さな子供たちが、霜の降りた地面に座り、そこに木切れで字を書
いていた。いたいけな姿が妹に重なって見えた。

「僕が学校を建てます」。彼はこう宣言して村を去った。

アメリカに戻り、グレッグは著名人に宛てた手紙を書き始めた。
500通余り出したがうまくいかず、行き詰ったところでヘルニ博士
という人の名前を知らされた。

ヘルニ博士はマイクロチップを開発した科学者である。同時に登
山家であった。気難しい人物だったが、支援を引き出すことに成
効。寄付された120万ドルを持って、グレッグは再びパキスタンへ。

ここから、私は少し笑ってしまった。グレッグは徒手空拳、何も
知らず、何も持たない。学校を建てるための資材を発注し、山道
を運ぶのだが、そのどたばたぶりと手際の悪さにははらはらさせ
られっぱなしだった。

なんとか、コルフェ村にたどり着いたグレッグ。しかし村人は、
学校よりも橋が必要なのだと彼に話した。コルフェ村と下の町を
つなぐのは一本のケーブルだけなのだ。これでは資材を運ぶこと
もできないと、グレッグは改めて己の計画の甘さを思い知る。

何も得ないままアメリカに戻ったグレッグは、ヘルニ博士に泣き
ついた。失敗したこと、ついでに、アメリカに待たせていた彼女
にもふられてしまったこと。ヘルニ博士は橋のための金を出した。

老齢の博士には死期が近づいていた。口の悪い老人だが、子供た
ちのための学校ができるのを、彼は心底心待ちにしていたのだ。
早く建てて写真を持って来いとグレッグをせかす。

博士の助力で橋ができ、学校の建設にも取りかかった。この頃、
グレッグは新しい恋をしていた。今度は結婚にまでこぎつけ、工
事を済ませてアメリカに帰りたかった。博士の容態も気になる。

急ぐ彼に村の長老が言った。「私たちのやり方も尊重してくださ
れ。よその人が来たとき、私たちはお茶を出してともに飲む。最
初の一杯目はよそ者。次の二杯目はお客、三杯目で家族となる。
その時間を大切にしてくだされ」

欧米のやり方がすべて正しいわけではない。村には村の文化と歴
史があるのだ。その中に入り込まなければ真の理解など得られる
べくもない。グレッグはそのことを知った。

イスラムの掟厳しい山間の村だ。あるとき、アメリカ人の学校が
建てられるときいて、有力者が妨害に訪れた。逆らって建てるの
ならば、羊を十二頭差し出せと無茶を言う。羊は家族であり、大
切な財産だ。

村人は泣いたが、長は言った。「悲しむことはない。彼らは一時
の食料を手に入れたかも知れんが、我々の子供たちには学校が残
る。字が読めるようになる。そのためなら何を犠牲にしても惜し
くはない」

コルフェ村に学校が建ち、グレッグは博士の支援を受けて、ほか
の村にも学校を建てようとした。親たちはこぞって学校を求めた。

貧しいのは教育がないせいだと言う。狂信的なイスラム信者にな
るのは、まともな教育が受けられないせいだと言う。テロの温床
とは実は、教育を受けられない貧困の中にあった。

誘拐されたり、資金援助にかけずりまわったり、アメリカでテロ
リスト扱いされたり、グレッグは大奮闘。やがて8年が経ち、パ
キスタンにいたグレッグに重大なニュースがもたらされた。

「アメリカの、ニューヨークという村が爆撃された」

それがイスラム教徒の行いであると知り、グレッグの友人たちは
皆心を痛める。イスラム教徒の名に値しないと、憤慨する者ばか
りだった。

あるとき、夫を亡くした女性たちがグレッグのもとへやって来た。
貴重な、生みたての卵を手に手に持って。彼女らは言った。

「ニューヨーク村で夫を亡くした女性たちに届けてください。私
たちからのお悔やみのしるしとして」


もうここで大号泣だった。たんぱく資源の乏しい村だ。羊が一頭
解体されると、人々は祭り気分でむしゃぶりつく。大切な卵を、
同じ悲しみを味わったアメリカ人に渡してくれとパキスタンの貧
者の村が泣くのだ。傍目にこっけいなところがまた、いじらしさ
と感動をそそる。

アメリカが国を挙げて憎み、敵と定めたイスラムの女が心を痛め
ている。敵であるはずのアメリカ人のために。戦争とは何なのか、
考えさせられる場面だった。

また、教育の大切さにも、改めて思いを深めることができた。

今年を締めくくるにはふさわしい一冊と言える。

あとがきがまた最高にいい。素晴らしい「オチ」になっている。
そやな、そやなと非常に納得できた。確かに私も、グレッグ先生
は素晴らしいと思うけれど、親しく付き合っていける自信はない。
(ごめんよ、グレッグ)

最後でさっぱり笑えるのもよかった。












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2010年12月16日

KAGEROU/水嶋ヒロ






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KAGEROU  水嶋ヒロ
¥ 1,470  ポプラ社 (2010/12/15)

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ああ、面白かった。本を読みながら、声を出して笑うなんて本当
に久しぶりだ。評判どおり約一時間で読了。わけのわかんない箇
所の戻し読みなんかしなかったら、きっと40分くらいで読めてた。

主人公はヤスオ。41歳の誕生日を明日に控える中年男。リストラ
勧告「らしき話」を受けたので自ら会社を辞め(やむを得ぬリス
トラではない、かっとして自ら辞表を提出している)、借金まみ
れになって自殺を思いついた。

行き着いたのは閉店したデパートの屋上。死のうとフェンスに足
をかけたとき、「ビリー・ジーンのときのマイケル・ジャクソン
のような」黒服の男に止められる。彼はキョウヤ。全日本ドナー・
レシピエント協会の者だと名乗った。

臓器が金になるという。借金を返して、父母に残す資産があると
わかり、ヤスオは逡巡する。ちなみにヤスオ、独身である。結婚
を考えていた女性はいたが、リストラ(?)後、別れを告げられ
てしまった。(40歳という設定にしては、どうなのって感じ)

しかし、どうせ死ぬのだしと、ヤスオはキョウヤの申し出を受け
た。組織の病院へ行き、検査を受け、よくわからんけどデパート
で心臓発作の芝居を打って(その症状が出る不思議な薬がある)、
無事ヤスオは死人となった。

そのとき、組織は精巧な人形を作って両親に見せた。ヤスオの死
を納得させるため。ヤスオは嘆く両親の姿を見て、死ぬべきでは
なかったかと悔やむ。

臓器の提供者が決まった。手術場所への移動の途中でヤスオはそ
の相手と偶然出会う。二十歳になる美しい女性だった。茜という。
彼女の助けになるとわかり、ヤスオはやや安堵する。

ヤスオが再び目を覚ましたとき、彼の体からは心臓が失われてい
た。無事茜に渡ったようだ。だが他の臓器を提供するはずのド
ナーに不慮の事故があり、心臓以外の臓器はまだ彼の体にある。

心臓のないヤスオに生があったのは、人工心臓が埋め込まれてい
たからだ。……!

人工心臓はぜんまい仕掛け。電源を外しても30秒は機能するよう
作られている。ぜんまい仕掛け!

やがて他の臓器を提供する相手が決まり、ヤスオは脱走すること
を決意した。

ヤスオが寝ているベッドには、上体を起き上がらせるためのハン
ドルがついている。リモコン操作ではない。今どき。このハンド
ルが心臓を動かす部分にぴたりとはまることがわかった。

電源が切れる30秒の間のどきどきアクション、ベッドのハンドル
を人工心臓に取り付け、ヤスオは病室の外へ。
(ぜんまい仕掛けだから、ハンドルで回せば動くらしいの)

夜である。なのになぜか、心臓病で入院していた茜と庭で再会。
この時点で手術から(つまりヤスオの心臓が移植されてから)、
二ヶ月が経ったという設定なのだけど、いいのか? 夜中に散歩
なんかしてて。

とにかく出会ってしまったので、二人は茜の秘密の隠れ家へ行く。
防空壕であったらしいその穴の中で、二人は命のすばらしさにつ
いて語り合う。

追われている自覚があるのだろうか。喉が渇いたため地上に出た
ヤスオ、捕まってしまう。彼をここに連れてきたキョウヤは、仕
事の多忙のせいなのか倒れ、

ここから最後のネタばれ



ヤスオの脳が、キョウヤの体に移植される。キョウヤとなったヤ
スオは茜に会いに行き、彼女の心臓の音を聞いた。自分の心臓が、
彼女の中で刻む鼓動の音を……。


あかん。面白すぎやろ。人工心臓大雑把すぎやし、そもそもそん
なものがあるのに、なぜ裏社会の臓器提供事業が成り立つんだ?

逃げるときにも切迫感がなく、そもそもその間も胸の前でベッド
のハンドルを回していると想像するともうおかしくておかしくて!

また、ところどころに真面目腐った「命とは」の問答が挿入され、
その重さとのバランスをとるためなのか、いろいろダジャレがち
りばめられているのもすごい。

「イギリスならジンだな。イギリスジン、なんちゃって」

なんちゃってじゃねえよなあ。

感じで言えば、以前取り上げた「王様ゲーム」みたいな感じ。山
田悠介さんが好きな人なら楽しめそうな物語だった。

しかし、いろいろ予想通りだなあ。ある意味安堵。

ファンの方はぜひ!
(としか言いようがないよ……)














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2010年12月10日

どんぐり姉妹







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どんぐり姉妹  よしもと ばなな
¥ 1,365  新潮社 (2010/11)

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姉の名前はどん子、妹はぐり子。二人合わせてどんぐりだ。双子
ではない。両親は姉が生まれたとき、対になる名前をつけるべき
妹が生まれることを、なぜか知っていたようだ。

妹の一人称で語られる物語。二人は「どんぐり姉妹」というサイ
トを開き、メールを受け、返信する。

どんぐり姉妹では金銭のやり取りは発生しない。誰かにメールを
出したくなったとき、しかしその相手が見当たらないとき、そっ
とアクセスしてほしいというのがどんぐり姉妹の趣旨である。

両親はのんびりした人だった。二人とも文章に関わる仕事をして
いた人で、その影響なのか、姉のどん子はフリーライターとして
働いている。

妹がメールを見、事務処理をして姉が返信をする。どんぐり姉妹
はさまざまな人のつぶやきを聞いて、その孤独に寄り添う作業を
くり返している。

姉妹の両親は二人が幼い頃に亡くなってしまった。交通事故だ。
新鮮な魚を地方から運ぶトラックに、衝突して死んでしまったの
だ。妹はしばらく刺身を食べられない時期が続いた。

最初に二人を引き取ってくれたのは、静岡のお茶農園の親戚だ。
農園の仕事をたくさんしたが、労働で汗を流すのは楽しかった。

次に身を寄せたのは医者の家だった。派手好きなおばさんと趣味
が合わず、姉妹は次第に追い詰められていく。姉は家を出、妹と
暮らすために懸命に働く。残された妹は衰弱し、ついに腎臓を悪
くするほどになってしまう。

その頃、妹はクラスメイトにひそかな恋をしていた。海が好きな
男の子、麦君だ。海に連れて行ってと、妹は言いたかった。麦君
も一度「いつか」とだけ言って黙り込んだことがある。いつか、
一緒に海へ行こう。

弱りきった妹を、姉が迎えに来た。親戚のおじいさんの家に転が
り込み、介護をし、その死を見取る。姉妹が住んでいるのはその
おじいさんが残してくれたマンションだ。

姉は奔放な恋をしている。結婚はしないという考えだが、恋が燃
えあがる瞬間を楽しんでいる。今のお相手は韓国人の青年だ。四
角い顔をした彼に、姉は父の面影を見ているらしい。

どんぐり姉妹に一通のメールが届く。夫が死んで悲しいというも
のだ。妹はふと、麦君を思い出して消息を尋ねる。そして、麦君
がバイクの事故で亡くなっていたことを知る。

妹にはその予感があった。夫の死を嘆く女性のメールに、不思議
と共感を得ていたのだ。妹は麦君の住んでいた場所を訪ね、偶然
にもその母親と道端で出会う。

持っていた花を手渡しながら、これを海に置いてこなくてよかっ
た、いや、置かずに持ってきたのは何らかの力によるものなのだ
と妹は考える。


どこか不思議な、インスピレーションと優しさに満ちた物語。

あらすじをご紹介してしまったけれど、あらすじなんか、実はど
うでもいいと思えるお話。地の文が面白い。

妹がサムゲタンを作る場面が出てくる。鶏肉や人参の香りが漂っ
てくるようで、とても幸せだった。食べ物が出てくる小説、好き
だわ。















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2010年11月26日

秘密の本 新版ホワンの物語







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秘密の本 新版ホワンの物語  ロバート・J・ペトロ
¥ 1,680  飛鳥新社 (2009/12/4)

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寓話的自己啓発書。ストーリーは波乱万丈で、最後まで楽しく読
むことができた。メキシコが舞台である。鉄道が敷かれる前の時
代の物語。

両親に先立たれ、天涯孤独の身となった少年ホワン。意地悪な農
園主に住まいを追われ、一頭のロバを伴って首都メキシコシティ
を目指した。

旅の途中でエクトルという親切な老人に出会う。彼は大変なお金
持ちで、以後ホワンを導くメンターの役割を担う。このときエク
トルは、チャンスはどこにでも転がっているのだと、若いホワン
を励ました。

ホワンはエクトルの知り合いを尋ね、ロバを買い上げてもらうこ
ととなった。寂しかったが、ロバを養う余裕はないのだ。

シティには職がなかった。苦労の末、ホワンはペドロという男が
経営するレストランで皿洗いの仕事をするようになる。

ここで彼はフアニータという女性と知り合った。ホワンは彼女の
家に間借りをすることになり、彼女の家族と親しくなる。

ホワンはロバの売買を始めた。ロバを見る目は父親に叩き込まれ
ていた。レストランの仕事も懸命にこなしながら、ホワンはロバ
の商いを少しずつ大きく育てていく。

この間にホワンはエクトルを訪ね、何度もその教えを乞うことに
なる。エクトルは語る。

「前向きの生き方をする。ゴールを定め、必要に応じて創造的に、
かつ柔軟に対応する」

「人に対して心を開く。会う人すべてを疑ったり、防衛的になら
ない。世の中には不正直な人よりも正直な人の方が多い」

「他人の困難や窮地につけこんではならない」

「商品においては成功をすることもあれば、失敗をすることもあ
る。その可能性は五分五分だということを忘れるな」

「富を他の人が豊かになるためのチャンスを与えるような使い方
をしよう。ただ与えるだけでは、なんの助けにもならない。自分
で食べ物を得る方法を教えてあげれば、もう飢えずにすむだろう」

「手を差し伸べて人を助けることは最善の人生哲学である。金銭
的に得るものはないとしても、精神的な見返りは非常に大きい」

ホワンはエクトルの助言を受けて、レストランをやめ、銀細工の
商売にも手を広げ、ロバの商いでは米軍を相手に大きな取引をま
とめることができた。

かつて自分を追い出した農園主からリンゴ園を買い取り、貧しい
農民に自立を教えることもした。

途中、ライバルに陥れられ、警察につかまることもあったが、彼
がした善意によって彼自身が救われるという経験を得た。

やがてホワンはマリアという美しい女性とめぐり合う……。


私個人としては、舞台がメキシコというだけで三割、や、四割増、
高得点で楽しめた物語でした。

警察が非常に恣意的に動いたり、町中は失業者でいっぱいだった
り、その辺りも妙にリアルで面白かった。

若い頃に読んでおきたい本だなあ。素直に楽しんで、人生に前向
きになれる一冊。













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2010年11月18日

夜行観覧車







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夜行観覧車  湊 かなえ
¥ 1,575  双葉社 (2010/6/2)

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坂の上にある高級住宅地、ひばりヶ丘。医師が殺害される事件が
起きた。犯人はその妻、高橋淳子。美人である。

向かいにある遠藤家、当の高橋家、ひばりヶ丘の古くからの住人
である小島さと子の視線から事件が暴かれていく。ネタばれ。

遠藤家
夫啓介、妻真弓、中学生の娘彩花の三人暮らし。真弓はスーパー
でパートをしている。高級住宅地にある家のローンがきついせい
だ。が、家は真弓の夢の結晶である。

彩花は中学受験に失敗してから、家の中で暴れるようになった。
その暴言がすごい。母親をあんた呼ばわり、真夜中に生理用品を
買いに行かせる傲慢ぶりだ。

娘に言われ、夜中出向いたコンビニで真弓は向かいの慎司に会う。
財布を忘れたという慎司に、真弓は1万円を貸した。帰ってくると、
その高橋家で事件が起きていた。慎司は以後行方不明。

真弓と彩花のうっくつしたやり取りが延々と描かれる。重いロー
ン、暴れる娘、知らぬ顔をする夫。とうとう真弓は彩花の口に泥
を詰めて殺そうとした。小島さと子に救われる。

高橋家
医師である夫にとって、二度目の結婚である。連れ子の良幸は医
大に通っている。新しい妻との間に生まれた子供も、成績優秀、
容姿端麗、素晴らしい家庭であるように見えた。

二番目の子供は女子高生の比奈子。彩花が落ちた私立の女子高に
通っている。好きだった父親が殺され、加害者は母親。友達から
も白い目で見られ、比奈子はなぜ、このような理不尽が起きたの
かと苦悶する。

弟の慎司は事件の日以来行方不明だ。離れて大学に通っている兄
に助けを求めた。慎司とも再会し、事件の究明のため、きょうだ
いは話し合う。

慎司は言う。僕は兄さんと違って頭のいい子供ではなかった。よ
い成績を保つために必死で勉強したが、それも限界である。母も
知っていたが、医学部に入ってほしいと願っていた。

父は違っていた。慎司はもういいのだ、顔もよいのだし、別に生
きる道もあるだろう。

母に詰め寄られ、父はそう、自分の考えを話した。

その言葉に母は激怒した。長兄の良幸は前妻の子である。その子
に慎司が負けるということは、自分が前妻に負けるということ。
憤った母は父の頭を殴り、殺した。

子供たちは受け入れ、殺人のあった家庭の子供として生きていこ
うと決意する。

小島さと子
彩花から「ラメポ」と呼ばれている。ラメの入ったポシェットを
いつもぶら下げているから。

さと子は遠方で暮らす息子夫婦に電話をかけて、事件の顛末を話
す。疎ましがられている様子から、この家にもある病理が描かれ
ている(のだと思う)。

さと子は事件を起こした高橋家を憎み、中傷するビラを作って家
に貼り付けた。ひばりヶ丘の住人の総意であると胸を張る。


結局、事件そのものにはどんでん返しも何もなかった。いわゆる
セレブな家の内側のドロドロを描くことがテーマであるようだ。

父が被害者、母が加害者という家庭に残された子供たちの苦悩、
優秀な向かいの家に対して常にコンプレックスを持ち、追い詰め
られたかわいそうな遠藤家。

期待して読みすすめた分、最後がちょっと拍子抜けだったかな。

最後は遠藤家も円満、高橋家も、子供たちはその境遇を受け入れ、
生きていこうとする。

だけどもう一波乱、二波乱、ありそうな気がすんだよなあ。だい
たい遠藤家は無理でしょ。体面ばかりを気にする母が、娘を殺し
かけたんだよ。

でもまあ、飽きることなく読めたのはよかったかなー。














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2010年11月08日

削除ボーイズ0326






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削除ボーイズ0326  方波見 大志
¥ 1,470  ポプラ社 (2006/10)

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第1回ポプラ社小説大賞受賞。

あー、自分でも下世話だと思うけど、気になったんだもん。下世
話結構、下世話上等! 話題の「2000万」を勝ち取った小説がど
のようなものか、卑しい興味だけで読みきってみた。

そんでもって、高田総統ばりに「かかってこいや」の気分で読み
始めたんだけど、どっこい、「言うほどでもないな」というのが
正直な感想。

おおげさにけなすほどでもないし、感動で涙するほどのものでも
ない。まあええんちゃうの、そんでこれ、ラノベ? という感じ。

主人公、川口直都(以下グッチ、それが愛称だ)の一人称で語ら
れる。小学六年生だ。友人のハルはある事故以来、車椅子に乗る
ことを余儀なくされている。

彼の父は失踪した。今は母と引きこもりの兄、明るいだけがとり
えの妹と暮らしている。

グッチはフリマに出かけ、同級生の浮石さんという女の子を助け
た。高校生にからまれていた。その折、そばにいたおじさんから
時間を削除できる不思議な機械をもらうことになった。

ある人物の写真を撮る。そして、タイマーで時間をセットすると、
その時間から3分26秒の間に写真の人物に起きた出来事を削除する
ことができる。そういったものだ。

クラス内での子供たちの人間関係が描かれている。モテる子、そ
うでない子、目立つ子、地味な子。こういった学級内での階級み
たいなものが、グッチの目を通して語られる。
(こういうの、最近はやりみたいだね)

友人のハルは事故が起きるまで、クラスのまとめ役だった。足が
早くて親分肌で、皆が彼を慕い、その指示に従っていた。

だが今は「親が社長」だという、クラリネみたいな種村くんがク
ラスのリーダーだ。ずるくてお金で人気を買うような子供だけど、
クラスのみんなは自然に彼の言うことを聞いている。

種村くん主催で肝試しが行われることになった。廃屋に入って
ボールを取ってくるというもの。ハルが挑戦し、怪しい男に切り
つけられる羽目となった。

一方で、削除装置は大活躍。同級生の父親の株取引の失敗をない
ものにしてみることで、未来が大きく変わることを知った。

後半、ハルが足を悪くした事件の謎解きがメインになってくる。

これにはグッチの兄が関係していた。当時、近所では小学生が連
れ去られ、顔に落書きされる事件が頻発していた。兄はその犯人
を資材置き場に追いつめたが、そこに運悪くハルがいたのだ。

乱闘の末、落ちかかった資材のせいでハルの足は動かなくなった。

兄は気に病んでいたようだ。以後引きこもり、ついには家の屋根
から飛び降りてしまう。自殺を図ったのだ。

こん睡状態にある兄を、グッチは助けようと思う。兄は犯人に関
わるヒントを、ネットの掲示板に書き込んでいた。その瞬間にい
た人物の時間を削除すればよいのだと思う。

高校生に絡まれていた浮石さん。地味な子のカテゴリにいる子
だったが、削除装置を知る仲間として仲良くなっていた。その子
の姉が、当該の人物であると知れた。会って時間を削除する。兄
はネットに書き込みをしなかった。

ハルの足はよくなった。事故そのものがなくなったのだから当然
だ。だが兄が飛び降りた事実は変わらず、それどころか兄が犯人
の一味であることが明らかになった。犯人と対決しようとする
グッチ。

犯人はあの廃屋に出入りしていた。廃屋に潜み、犯人の写真を、
グッチはついに撮影した。

時間を削除するが、兄は元に戻らない。グッチは気づいた。兄自
身も、この装置で過去を消そうとしたのだ。だがうまくいかず、
かえってこんがらがって兄は気が触れてしまった。装置は悪だ。
装置そのものを消すほか道はない。

グッチは元気いっぱい、悪がきに戻ったハルとマラソンの勝負を
しようとする。ハルとはずっと親友だった。だが真剣勝負をした
ことはなかった。この勝負が済んだら、装置を手にした時間を消
して、すべてをなかったことにしてしまおう…。


小学生の間にある微妙な感情が主に描かれている。大人びている
と思わなくもないが、どうなんだろ、その辺はわからん。

削除装置そのものは、よく生きているのかそのこともわからん。
そもそもそんなものを手に入れたら、まず最初に思いつくのはハ
ルの足をよくすることなのではないだろうか。

それに最後、装置を得た時間を消すことによって、事態が何一つ
解決しないだろうということがわかって読み手としては愕然とす
る。兄の引きこもりもハルの足も、よくならないまま終わりかい。

しかし、小学生がネットをしたり階級闘争をしていたり、その意
味では「社会派」と言えるのかもしれない。SFでもありファンタ
ジーのようでもあり、そんでもって文章はいわゆる「厨二」っぽ
い過剰な比喩、修飾にあふれている。

なるほどポプラ社小説大賞とは、このような作品が好みであると
いうことか。その辺はよく理解できた。


















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2010年10月29日

南の子供が夜いくところ







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南の子供が夜いくところ  恒川 光太郎
¥ 1,470   角川書店(2010/2/27)

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こ、これはすごい。こんなお話を日本語で読めることに感謝。

南の島、トロンバス島を舞台にした短編集。それぞれ独立はして
いるが、重なっている設定もあるので最初から読んでいくのが正
解か。

とにかく最後の「夜の果樹園」は最高、傑作、圧巻。これ一本だ
けでも読む価値はある、ありすぎる。お釣りがくるくらいだよ!

ああ、迷うな。これを紹介してしまったら、ショートケーキの苺
だけ先に食べてしまうようなものだ。グラビア雑誌の袋とじを開
けて見せてしまうようなものだ。

しかし本書の魅力はこの一冊に凝縮されていると思う。そして、
私の短文程度では本当のよさは伝わらないのだとも思う。よし、
いっちゃえ…!

(本日も普通にネタばれなので、読みたくない方は以下ご注意)


・夜の果樹園

破産した男。離れて暮らす子供に会いに、トロンバス島を訪れた。
バスに乗って向かうが、どうやら路線を間違えたようだ。

下りた場所には奇妙な人間がいた。頭部がフルーツでできている
のだ。彼もいつしか犬になっていて、頭がマンゴーでできた女の
飼い犬にされそうになる。

逃げ出した。逃げた場所で赤ひげの小鬼に出会う。赤ひげが言う
には、彼ももともとは人間であったが、ここに迷い込んでこのよ
うな姿かたちになってしまったのだそうだ。

彼も小鬼になった。赤ひげとともにフルーツ頭の人間を襲う。食
らう。えもいわれぬ充実の味がした。美味だった。

赤ひげは人を殺して逃げてきたのだそうだ。人に戻りたくないか
と問えば、悲しい顔で「その話はしないでくれ」と答えた。

小鬼になった男は、一人で戻ろうとしたことがある。案山子が立
つ畑を、一晩中さまよった。案山子が指す方角を、ひたすらめざ
して歩いたのだ。

だが朝になってみると、彼は元いた場所に戻っていた。「散歩は
楽しかったかい」と案山子に言われて、からかわれていたことを
知る。

小鬼の男が暮らす場所に、願懸けに来る女がいた。妹を殺してく
れと熱心に祈っている。小鬼は願いをかなえてやり、女の夫と
なって家族を持った。

どれだけの日が過ぎただろう。小鬼はいつかフルーツ頭の人に
なっていて、それが当然だと思い始めていた。だがある日、仕事
から帰った彼は、無残に殺された家族の死体を目にしてしまう。

食われたのだ。かつて自分がフルーツ頭を狩ったように、別の小
鬼に食われてしまった。絶望した男はついに…。


すごいよねえ。すごい、すごいわ。不思議が不思議のままで、現
実の世界にリンクしている。現実を壊す力を持っている。

この本を読めてよかった。出会えてよかったこの一冊、って感じ。

こういう、現実の根本が揺るがされる幻想小説って、日本では珍
しいんじゃないかな。専門家でないので、その辺はよくわからな
いんだけど。

中南米の幻想小説のテイストがあるように思う。マジックリアリ
ズム、とかいうやつだね。常識人には到底ない発想で、世界をぐ
るりと変えて見せてくれる。

もっと本を読まなあかんな、という気持ちにもさせられた。小説
はやっぱり素晴らしいなという気持ちにもなった。

奥が深いわ。














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2010年10月21日

吉祥寺の朝日奈くん






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吉祥寺の朝日奈くん  中田 永一
¥ 1,680  祥伝社 (2009/12/11)

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映画化ドラマ化、話題の小説百花繚乱のこの時期だというのに。

しかしこの本もよかった。ぽこりと空き地に咲く花のような素朴
さがある。かわいらしい短編集。

一本目はなんと、交換日記の形式で語られている。

私は本来、この手の形式に頼る「ねえねえ、これってちょっと独
特でしょおしゃれでしょ」的な小説が大、大、大嫌いだ。しかし
読み始めると、そのミステリアスさについ目が先の字を求めてし
まった。悔しいけど運ばれていく。

登場人物たちのだらしなさ、等身大であることにも、つい口元が
ほころび、じんわりと共感を抱かせるものだった。

・交換日記はじめました!

日記に書き込まれた文章のみでつづられる。最初の日付は1986年
1月。圭太なる人物が、ハレー彗星の番組を見たと記している。

返事をするのは遥、女子高生であるらしい。ほのぼのとした恋の
日記がしばらく続くが、やがて二人の間に亀裂が生じることに。

圭太が別の女性とキスをしたところを、遥は目撃したようなのだ。
圭太は誤解だというが、二人はそのまま別れてしまった。

日記には、遥の家族の記述も見られる。妹が「姉は圭太さんの前
で格好をつけているだけ、本当は何も続かない、だらしない」と
書けば、母親も二人を案じていると独白している。

やがて日記は盗難にあい、ふとした拍子に山田という青年のもと
へ運ばれる。山田は仕事に悩んでいたが、遥の頼りない書き込み
を見て生きる気力を取り戻す。

山田は会ったこともない遥に思いを馳せている。あるとき、彼は
遥と圭太、二人のことを描いたらしい小説があることを知った。
交換日記と恋人の話、ハレー彗星の話。

山田は作者に手紙を書いた。あなたはあの圭太なのか。

ここでちょっとひねった恋の結末が描かれるのだけど、ネタバレ
と怒られそうなので割愛、割愛。

・三角形はこわさないでおく

これ、すごく好き。

白鳥ツトムは容姿端麗、成績優秀な男子高校生。友人の廉太郎の
目を通して、彼と彼が恋する女の子についてが語られる…はずが。

ツトムが恋をした小山内さんは、稀有な女の子と言えた。ベリー
ショートがよく似合って、かわいいスニーカーをはいている。

二人の出会いは雨の日の公園だ。互いに猫を案じてやって来て、
雨宿りをして話をしたのだという。廉太郎はもちろん、ツトムの
恋を応援するつもりだった。

もとより廉太郎は、二番手に自分の位置を見出してしまう人間な
のだ。ツトムのように優れているわけでもない。小山内さんだっ
て、ツトムが好きに決まっている。友達を押しのけて行く強さは、
廉太郎にはなかった。

小山内さんと廉太郎も、ときどき話すようになった。昼休み、廉
太郎がおにぎりを買いに行くと、なぜか小山内さんがいるのだ。
小山内さんは一度うそをついてまで、廉太郎が通りがかるのを
待っていた。なぜだ?

ツトムの口ぶり、小山内さんのちょっと不思議な語り口。どれも
独自の世界観の中にあって、透明な輝きを放っている。(わ、書
いてて恥ずかしいけど、ほんとうにきれいで素敵なんだ)


悲痛だとか、どっぷりと泣きたくなるような感情とか、そういう
のとはちょっと違うかもしれない。不思議なテイストの恋愛小説
短編集。

特に最後の作品、表題にもなった「吉祥寺の朝日奈くん」は、恋
愛テイスト、素敵ドラマかと思いきや、急激な反転で腰が抜ける
ほど驚かされた。

妙な感想だけれど、お得感が味わえた一冊だった。面白いわ。











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2010年10月05日

王様ゲーム






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王様ゲーム  金沢伸明
¥ 1,260   双葉社 (2009/11/17)

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まあなんというか、あかんね。こういうのを一般文芸の棚に並べ
たらあかん。

モバゲータウンとかいうコミュニティサイトで評判を得た小説な
のだそうだ。ある学級に不審なメールが届き、クラスメイトが次
次を死んでいくというホラー風味の物語。

あらすじをざっとご紹介しよう。主人公は金沢伸明。奇しくも著
者と同じ名前である。(ケッ)

その伸明の携帯に、王様なる送信者から、王様ゲームと件名をつ
けたメールが飛び込んできた。

男女二人、級友の名が指名され、キスをせよと書かれている。確
かめてみるとそのメールは、クラス全員に届けられていた。

いたずらかと思った。だが二人はにぎやかな教室でキスをする。
すると皆の携帯に「服従確認」と記されたメールが届いた。

王様の命令はエスカレートする。そして従わなければ不審な死が
待っている。胸を触られることを拒んだ女子、そのために触れな
かった男子が、メールの通り、首をつって亡くなったのだ。

学級は戦々恐々、疑心暗鬼の日々が続いた。メールに従って、彼
以外の男子とエッチをした女子がいた。次にメールはその彼の下
へと届き、級友一人を選んで好きな指示を下せと命令をしていた。

よくわからんな。要するに、恋人を寝取られた(高校生の話かよ)
彼氏に、復讐の機会が与えられたということだ。彼は当然のよう
に相手の男の名前をあげ、首を吊って死ねと命じた。

主人公伸明は、命じられた男子生徒とともに夜を過ごそうとする。
命令が効力を持つ時間はその日一日と限られている。十二時をす
ぎ、無事を確かめて寝たはずなのに、あくる朝男子生徒は首をく
くって死んでいた。

王様の命令から逃れる術はない。

級友を二人指名して、人気投票をせよというものもあった。負け
た方は死を宣告される。仲が良かったクラスは真っ二つに割れ、
不審ばかりがうずまくようになった。

と、それからいろんな死が続くが、まともに人物描写ができてい
ないので誰が死んだのか何が悲しいのか、その辺がさっぱりわか
らない。

子供にとっては「ガーン!死んだ!ババーン!」的な面白さがあ
るのかもしれないが、ガーン、ババーンでは乾いた三十路の心を
打つことなど決してないのである。

そんでもってほのめかされた夜鳴村なんてところに伸明は向かい、
王様ゲームが過去にもそこで行われたことを知る。そして彼の恋
人である智恵美という女の子が、その村の生き残りの血を引いて
いたことも知る。

生き残った者は王様にならなくてはいけないらしい。しかし智恵
美も死んでしまい、よくわからんうちに伸明は転校する。そして
なぜか、伸明が次の王様になっているようだ。ババーン!


小説を読まない人が、初めて小説を書いたらこうなるんだろうな
といういい例だった。描写なし、キャラクター設定甘し、思いつ
きの会話でページが進んでいく。大人が真面目に読むものではな
かった。

しかし悲しいのは、山田悠介さんのあの、エポックメイキング的
な作品ほどのインパクトが感じられなかったことだ。

「リアル鬼ごっこ」、あの作品には多くの名文句があった。「ラ
ンニング状態で足を止めた」、こういう衝撃的な文章が、どこを
探しても見つからなかった。地の文が圧倒的に少ないせいだ。描
写がどこにもないせいだ。

アホみたいな会話ばっかり。会話、会話、会話、会話。背景も状
態もよくわからんまま、情緒もクソもない会話でごまかして何が
したいんだ?

そう考えるとリア鬼の作者は、それなりの誠意を持って小説に向
かったのだろうな。こんな比較をしてしまうことがむなしく、悲
しい。

携帯小説からも、そろそろ新しい芽が生まれてきてもいいはずだ。
きっとあると思うんだ、光る芽ってやるが。出版者様、いいのを
ひとつ、頼みますよ。












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2010年09月09日

下流の宴







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下流の宴  林 真理子
¥ 1,680   毎日新聞社 (2010/3/25)

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台詞が多く、すらすら読める。面白かった。

由美子の夫は早稲田大卒のサラリーマン。息子の翔、娘の可奈、
二人の子供に恵まれた。恵まれた?

由美子は不満である。翔にはあれこれ手をかけた。エリートに
なってほしかったのに、翔は中卒、現在はフリーターである。

翔は家を出て行き、オンラインゲームで知り合った玉緒という女
性と同棲していた。沖縄出身の玉緒もフリーター。あんな下流の
女と一緒になるのかと思うと由美子はぞっとするばかりだ。

由美子の母は女手一つで娘二人を育てた。父は医者だったが早世
した。医者の娘であったということが由美子の誇りなのだ。下流
でいてはいけない。追い立てられるような思いがある。

可奈は美貌の娘だった。大学はお嬢様学校と呼ばれる女子大を選
び、美貌をエサに、よい男を手に入れようと日々苦心している。
母のように、中堅サラリーマンの妻になるのは真っ平だった。

翔と玉緒は仲良くやっているようだ。二人で稼いで月30万の金で、
100円ショップで物を買い、ドラ焼きをかじるデートを続けている。

あるとき、玉緒の弟が突然上京してきた。高卒で内定した会社が
倒産したというのだ。知り合った中国人女性に金を渡すため、玉
緒の弟はつい、翔の保険証で携帯電話を買ってしまった。

裏バイトというやつにひっかかったのだ。事情を知らされ、由美
子は激怒する。うちは医者の血筋なの、あんたのような家の子と
は違うの。犯罪などに巻き込まないで。

玉緒の前で怒鳴りつけると、玉緒も応じてたんかを切った。なら
医者になる。私は医者になるから、その言葉、取り消してくれ。

玉緒は高卒である。言った後で悩んだが、幸い、仲のいい美容師
のつてで、ある受験予備校の創始者と知り合うことができた。通
信制の学校だ。玉緒は死に物狂いで勉強に取り組む。

勉強は楽しかった。扉が開くようだと思った。しかし翔は、そん
な玉緒に距離を感じるようになっていた。がんばる女は嫌いだ。
翔は玉緒を見ながら思う。

一方で可奈は、内定していたメーカーの就職を蹴り、派遣社員と
なって働き始めた。一流企業に「入る」には、そのほうがよいと
考えたのだ。

合コンにも手を尽くし、可奈は外資系のトレーダーとの結婚にこ
ぎつけた。いわゆるでき婚であるが、夫は金持ちで高級マンショ
ンに住むことができた。十分に勝ち組であるはずだった。

しかし、夫は結婚一年半ほどでうつ病になってしまった。会社も
クビだ。三重の田舎に帰ろうと言われ、可奈は憤るばかり。

玉緒は医学部の入試に受かった。医者になるため、以後も努力を
しようと思う。だが翔はそんな彼女から離れてしまった。

翔は今でもフリーターだ。一人で暮らすのはきついらしく、とき
どき実家へ戻ってくる。可奈も由美子の家に戻ってきた。由美子
の希望は、可奈が連れて帰った孫のコウちゃんだけ…。


覇気もない、ついでに性欲もない翔くん。車も欲しくないと言っ
て、祖母をたいそう驚かせる。景気も悪くなるはずね、若い男の
子が車を欲しがらないだなんてと祖母は嘆く。

この翔くんが面白かった。

しかしこの翔くん、「アイドルグループにいてもおかしくないほ
ど」容姿のいい子なのだそうだ。私の頭の中ではあの翔くんの顔
がずっと脳内再生されていた。林さんも絶対狙ったと思うんだけ
ど、実際のところはどうなんだろう。













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2010年08月25日

王様は島にひとり






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王様は島にひとり  池上永一
¥ 1,365   ポプラ社 (2010/1/19)

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面白い本を読むと、つい、近くにいる夫にその箇所を音読して聞
せてしまう。んで、この本に関してはほぼ丸ごと朗読してしまっ
た。とにかく笑えた。

池上永一さん。沖縄出身、東京在住の小説家さんのエッセイ。し
つこいけど笑った、笑った。

梅雨どきの日本列島。梅雨前線「見たさ」に飛行機に乗った。ト
イレにも行かずにがんばったのに、結局見ることができなかった。

客室乗務員の方にクレームをつけると「ああ、夜だと暗くてよく
見えないんですよね」とあっさり、ばっさり。素人とは思えない
見事な切り返しであった。

横断幕。道路にあるそれは、本土と沖縄ではずいぶん様子が違う。
本土にあるのはたいてい、公共心あふれた、不特定多数の人にあ
てたものだ。

だが沖縄では、非常に個人的なメッセージが掲げられている。
「十六歳になった○○、誕生日おめでとう」「サンタクロースさ
ん、自転車がほしい。○○より」「チャッピーの子供が生まれま
した」「もう一度君に会いたい」

コカコーラかバヤリースのロゴが入って、一本五千円ほどででき
るのだそうだ。誰でも、自由に。沖縄を訪れた際にはぜひ。

彼が小学生の頃、庭に大きな小屋ができた。犬が来る、と喜んだ
著者だが、来たのはウサギだった。前座か、と彼は思った。犬が
来るまでの前座だと考えたのだ。

ところがその前座は次々と増えていった。なんでも両親は、繁殖
させて一儲けしようと考えていたらしい。が、収集がつかなくな
り、困ったあげく、ウサギを連れて無人島へと船を走らせる。

ついに、犬も飼った。しかしその犬はアホ犬で、おまけに恐ろし
く攻撃的な犬だった。

あるとき、水牛と格闘している姿を見つけた。ぞっとした。水牛
は強い。NHKの連想ゲームで具志堅用高が、「百獣の王は?」
と問われて即座に「水牛!」と答えたほどだ。

犬を殴り、失神させて引きずって帰った。散歩をさせるのも命が
けの犬だった。

弟は一歳にもならずに死んだ。病気だったのだと思う。沖縄では
赤ん坊を手厚く弔う文化がない。両親、特に母親は嘆き、ばらば
らになりかけた家族を再結集させるために、著者は懸命に弟の小
さな仏壇に供え物をした。

三十三回忌が行われた。大盤振る舞いをしたいと母が言う。望み
をかなえてあげ、やっとほっとできた。

考えてみると弟にもかわいそうなことをした。小さかった弟に、
家族を背負わせてしまったような気がする。やっと解放してあげ
られた。


圧倒的に笑える話が多いが、ほろりとくる話も中にバランスよく
ある。表紙カバーのイラストが夏。楽しむのは今しかない。














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2010年08月19日

光媒の花







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光媒の花   道尾 秀介
¥ 1,470  集英社 (2010/3/26)

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短編集。登場人物が互いにリンクしあっているという構成。ネタ
ばれですのでご注意ください。

・隠れ鬼
印章店を営む男性。痴呆症の母と二人暮らし。あるとき母が笹の
花の絵を描き、彼はひやりとする。

避暑地の夏、少年だった男性は、ある女性に思いを寄せた。だが
彼女は父の愛人だった。別れ話の現場に遭遇した彼は、つい女性
を殺してしまう。あの土地にも笹の花が咲いていた。

警察は父を探り、父は自殺してしまった。

・虫送り
友達の間にうまく溶け込めない小学生の兄妹。二人の楽しみは夜
の川原で虫を取ることだ。懐中電灯で照らすと、対岸にも同じ光
が見える。友達ができたようでうれしかった。

あるとき、ホームレスの男に妹が連れ去られた。幸いにして無事
だったが、二人は決意して男の住処をめがけて、橋の上からコン
クリート片を落とす。

・冬の蝶
兄妹が虫取りをする川原。対岸にいたのは同じホームレスの仲間
だった。彼は少年の頃、虫を研究する仕事につきたかった。

その夢を、笑わない同級生がいた。彼女に思いを寄せる。だが彼
女には秘密があった。母が連れ込んだ男に、日々性的な虐待を受
けていたのだ。

懐中電灯をつけていたのは、対岸の仲間の男が幼い女の子に興味
を持つ変質者だと知っていたから。かつて同級生を救ってやれな
かった自分に、後悔があったから。

あの日、何かがあったことを悟った彼は、仲間の男をコンクリー
ト片で殴り殺した。

・風媒花
トラック運転手。母親に反発を覚え、家を飛び出していた。社長
夫妻はいい人で、彼をよくかわいがってくれる。

あるとき社長の妻が、風で受粉する花を風媒花というのだと教え
てくれた。彼は姉を思う。

父を亡くしていた。必死で働く母を、姉は支え、家族のために犠
牲になったような気がする。姉は風に吹かれ、流されるだけの人
生を送ってきただろうか。

姉が倒れた。だがその姉の助けを得て、彼は母と再び言葉を交わ
すようになった。風媒花なんかじゃない。姉はちゃんと自分の意
志を持っている。


まあ、概要だけ書いたら色気も何もないけど、文章がきれいなの
で、読むとちゃんと深い味わいがある。ただまあ、正直に言うと、
ありきた…(以下略だ!)

それによ、直木賞の選評にもあるみたいだけど、性的虐待っての
を「ねえ、どう、衝撃的っしょ?」的に使われるのにはちょっと、
やーな感じが残るわね。虫送りの最後辺りの台詞に、「そんなや
つ、死んでもいいよ」と答えたくなった私だ。

とはいえ、まとまっているといえばまとまっている。うん、まと
まってはいる。















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2010年08月17日

ヒルクライマー







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ヒルクライマー  高千穂 遙
¥ 1,502   小学館 (2009/7/23)

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うーん。ちょっと残念。

神音大作は、ふとしたことからロードバイクの魅力にとりつかれ
てしまう。メタボを気にしていた体もすっきりとやせ、休日は自
転車にかかりっきり。

そのため家族との不和が生まれているが、大作には、これしかな
いという熱い思いがある。サラリーマンをやめてプロになること
はないが、レースに参加し、よい成績を上げている。

松尾礼二がバイクに乗るきっかけになったのは、若くして親友が
亡くなったことだ。礼二は大学中退のフリーター。マラソン選手
であったが、大学を辞めてからはバイトばかりの日々である。

その礼二に、親友がバイクを一台残した。手入れをしてもらうた
めに訪れたバイクショップ(自転車屋)で、ロードバイクを楽し
む人々の集まりに出会う。

礼二も参加することにした。自転車には金がかかる。だが、普段
乗るものと違って、激しい運動に耐える作りになっている。関戸
橋から多摩川まで、ショップで知り合った人たちとツーリングに
出かける。

それから、礼二もはまってしまった。彼らは平坦な町を走るので
はない。坂をこぐ。山を登る。神音大作がいるチームに、彼は次
第になじんでいった。

朝倉美奈という女性がいる。キャバクラに勤めながら、チームに
参加している。阿部紺太はプログラマー。金はあるそうで、運動
不足を解消するために自転車をはじめ、彼もはまった。

彼らは週末ごとに集まって関東の山を登る。関東の地理には詳し
くない上、ロードバイクにも乗らない私にはそうとしか言いよう
がない。

人間関係も入り乱れてくる。礼二は大作の娘と付き合うように
なった。大作の娘、あかりは父に反感を持っている。礼二と交際
を始めてからも、自転車を愛する彼らの気持ちがわからず、戸惑
う。

大作はサラリーマンでありながら、レースにおいては有力な選手
であり、名も知れていた。その大作に挑めるのは、才能のある礼
二しかいない。阿部紺太に水を向けられ、礼二は山に向かう。

大作は礼二とあかりの仲を知っている。義理の親子に模した二人
の男性の戦いが始まる。


ってな感じだが、自転車が好きな人、関東の地理に詳しく、ロー
ドバイクで走る人じゃないと、あまり面白くないんじゃないかと
思う。

自転車競技の描写、初めて乗る人に対する注意(礼二の体験とし
て描かれる)、ヒルクライムの魅力、らしきものはたくさんある
が、基本的に閉じている。知らない人を巻き込む力は、残念だけ
どないと思う。

人間関係の描写はさらに寂寥。基本的にこの小説において、人間
は記号でしかないのだ。あかりが礼二にセックスをねだり、断ら
れて「ぷんぷん」と、語る台詞があるが、そこで絶句して後まと
もに読む気がなくなった。

だめだ。地の文でもきつい。いまどきマンガの背景文字でもきつ
いのに、会話、台詞で「ぷんぷん」はねえだろ…。

セックス大好きな女子高生あかり、趣味にのめりこみ家庭を省み
ないサラリーマン大作、なぜかADHDという「スパイス」がふりか
けられた礼二、大作を「大作様」と実際に呼んであがめるキャバ
嬢美奈。全員記号的。現実味なし。

島本和彦さんあたりが、大作の内面に焦点を当てて描いてくださ
ると楽しいかななんて思った。炎のヒルクライマー。よいではな
いか。








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2010年07月27日

乙女の密告






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乙女の密告  赤染 晶子
¥ 1,260   新潮社 (2010/07)

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143回芥川賞受賞作。外国語大学でドイツ語を学ぶ女子学生たち
を描いたもの。

主人公のみか子はバッハマン教授のゼミに参加している。バッハ
マン教授は変わった人だ。いつも西洋人形を手に持っている。彼
は学生のことを乙女と呼び、すみれ組、黒ばら組という二つの派
閥に分けていた。

外大では一月にスピーチコンテストが開かれる。みか子が参加す
るのは暗唱の部。みか子たち乙女は、バッハマン教授から課題を
渡された。アンネの日記の一節を暗記せよというのだ。

それはアンネの日記の中でも一番緊迫する場面だった。捜索の手
が間近に迫ってくるのだ。日記の中でアンネは、自分がユダヤ人
であることを強く自覚し、使命を受け入れようと決意する。

だが同時に、彼女は「戦争が終わったらオランダ人になりたい」
とも書いている。アンネはアンネのままでいたかったはずなのに。
隠れ家の中で、アンネは自己とは何か、懸命に問うていたのだ。

スピーチの練習が始まった。だがみか子は、何度も同じ場面でつ
まづいてしまう。次の言葉がスムーズに出てこない。

上級生に、麗子様という学生がいる。何度留年したか知れず、ス
ピーチに人生をかけているような人だ。首からストップウォッチ
をぶら下げ、正確なスピーチができるよう日々心がけている。

麗子様にはよからぬうわさがあった。バッハマン教授と正しくな
い仲であるというのだ。もちろん現場を見た者はいない。証拠も
ない。だが乙女とは、証拠や現実よりうわさが好きな生き物だ。

麗子様とバッハマン教授は教授の部屋で親しく話しているのだと
言う。ひそひそ声が漏れている。

みか子は決意し、ひそひそ声が流れる部屋のドアを開けた。そこ
にいたのは教授とあの西洋人形だけ。教授は人形と語らっていた
だけだった。

肩透かしを食らうみか子だが、その様子を見られたことに気づき、
あわてる。今度はみか子がうわさの対象になってしまった。乙女
は真実を突き止めない。うわさだけが一人歩きしていくのだ。

密告を恐れるアンネとみか子の心情が重なる。みか子のスピーチ
は未だ途中で途切れるまま。次の言葉が思い出せないのだ。

麗子様が言う。「その言葉こそ、みか子に一番大事な言葉。ス
ピーチとは大切な言葉に出会うためのものなのだから」

みか子は気づいた。彼女が忘れていたのは「オランダ人」という
言葉だった。

オランダ人になりたいと願ったアンネ。ユダヤ人であることが許
される時代ではなかった。彼女の自己を引き裂く言葉を、みか子
は無意識のうちに避けていたのだった。

スピーチは流れるようになった。教授の人形が盗まれ、みか子は
犯人を突き止める。麗子様だ。一度人形を渡されるが、やはりみ
か子は麗子様の手に戻すことにした。麗子様は教授を慕っていた
らしい。

学校から消えた麗子様と人形を求め、教授がみか子の家に来る。
みか子は思わず彼を「ジルバーバウアー」と呼んだ。アンネたち
を連れ去ったナチスの将校だ。

教授はあわてた。否定し「他者の名前で呼ぶな」と言う。

「アンネ・フランクが命がけで私達に残した言葉。それはアンネ・
フランクという名前そのものなのだ。ホロコーストの中で大勢の
人がその名前を奪われた。殺された人にはそれぞれ名前があった。

スピーチで忘れることを恐れるな。私達が覚えているべき唯一の
言葉、アンネ・フランクの名を忘れなければそれでいい」

みか子はスピーチ台に立つ。みか子はそれまで、アンネが自己を
否定することが怖くてたまらなかった。密告を恐れていた。真実
を必要としない乙女であったみか子も、やはり真実から目をそむ
けていたのだ。

みか子は宣言した。「アンネ・フランクを密告します。彼女はユ
ダヤ人です」

最後にアンネの名前を呼ぶ。日記はどれも、彼女の名前で結ばれ
ているからだ。「アンネ・フランクより」と呼んで、みか子のス
ピーチは終わった。


簡潔で美しい文章だった。堪能したわ〜。

とはいえ、ちょっと違和感が残ったのが、外大の女子学生が乙女
と呼ばれているところ。

私が知っている限りでは、外大に通っている女子は、たいていそ
の辺の男子学生よりもよっぽど男らしい人ばかりだったから。

ま、京都は違うんだろうな。京都外大のお話でした。












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2010年07月25日

小さいおうち







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小さいおうち  中島 京子
¥ 1,660  文藝春秋 (2010/05)

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第143回直木賞受賞作。昭和の時代を一人の女性の目を通して描く。
今日もネタバレです。要注意物件、よろしくです。

山形生まれの布宮タキが東京へ出たのは昭和五年のことだった。
尋常小学校を卒業し、女中奉公をするための上京だ。

今の人に聞かせると、大変な苦労だったと思われがちだ。だが当
時、女中奉公とはお嫁に行くための修行のようなものだった。他
家に住み込んで、家事を学ぶことでもあったのだ。

タキが最初に暮らしたのは作家の小中先生の家だった。そこでタ
キは、先生から女中の心得について教えられる。女中は賢くなけ
ればならない。ときには身を挺して主人の誇りを守らなければな
らない。

次にタキは浅野家に入り、時子という奥様に出会った。時子はタ
キをたいそう気に入り、夫が死んだ後もタキを離そうとはしな
かった。

時子の再婚とともに、タキも新しい家へ。時子の新しい夫は玩具
メーカーの幹部で、時子と再婚してから三年で美しい家を建てた。
赤い三角屋根、白いポーチにステンドグラス。タキは今でもその
光景をまざまざと思い出すことができる。

時子には前夫との間に子供があった。男の子だ。平井氏は彼をよ
くかわいがり、会社で作ったブリキの玩具を与えていた。平井氏
と時子の間に子供はいなかった。平井氏は、女性に関心が持てな
いタイプであるらしい。

東京でオリンピックが開かれるかもしれないと盛り上がる。ベル
リンの次、アジアで初のオリンピックが日本で行われるかもしれ
ない。しかしベルリン五輪は戦争のため立ち消えになり、話も次
第に忘れ去られた。

あるとき、夫の仕事の用で出かけた時子は板倉という青年と出会
う。彼は会社でデザインを担当している。芸術家肌の青年だった。

時子は美容に強く関心を持っている女性だった。着ている物もい
いものばかり。装飾品を愛し、髪もきれいにセットし、華やかな
ことが大好きな人だった。

戦争が始まったという。だが日本は沸き立っていた。南の島が陥
落し、砂糖が手に入ると浮かれたこともあった。徴用で若い男性
がいなくなったが、タキには平和と思える日が続いていた。

平井家の子供のブリキの玩具を供出せねばならなかった。夫の会
社も金属が手に入らずに苦労しているという。食事の材料もじょ
じょに乏しくなってきた。だがタキは工夫を重ねておいしい食事
を作り続ける。

庶民の暮らしは苦しいながらもなんとか都合をつけていた。しか
し、時子の夫の部下、板倉までもが徴兵されることになる。板倉
は徴兵検査で丙種とされていたのにだ。戦争はどんどん大きくな
る。

また、タキはそのとき、時子と板倉の仲がのっぴきならないもの
であることにも気がついていた。

最後に会いたいと家を出ようとする時子。タキは止める。最初の
主人、小中先生の言葉が脳裏によみがえる。時子に手紙を書けと
言う。この家で、この美しい家で会うように勧める。板倉の一人
暮らしの部屋に、時子をやるわけには行かないと思った。

やがてタキは郷里に帰る。食糧事情が悪くなった頃だ。平井家の
負担になるのはいやだった。それに、いつまでも女中を使ってい
る家など、東京でも少なくなった時代だったのだ。

郷里でタキは一生懸命に生きた。疎開児童の世話をし、大空襲の
直前に時子に会いに東京へ戻った。ありったけの食料を隠し持ち、
彼女はあの赤い三角屋根の家を訪れたのだ。

それがタキがあの家を見た最後だった。空襲で家は焼け、平井夫
婦は亡くなった。たった一人の男の子は生き残ったそうだが、タ
キは探そうとはしなかった。

タキの甥の述懐が続く。タキが残した記録を読んで、彼はそこに
出てくる人たちの消息を尋ねたのだ。時子の子供にも会った。

甥はそこで、タキがずっと大切に残していた手紙を開封する。差
し出し人は時子。宛名はない。

そこには、時子が訪問を乞う文面があった。甥は悟る。この手紙
は時子が板倉に宛てたものだ。会いに来てほしいと時子は願った。
しかし手紙が届くことはなかった。

時子は美しい、誰もが魅せられる女性だった。タキが彼女に魅入
られなかったと誰が言えるだろう。タキは死ぬまで何かを深く悔
いていた。この手紙こそ、タキを苦しめたものだったのではない
か。


戦前の華やかな暮らしに驚かされる。時子の姉がいわゆるお受験
ママだったりして、今も昔も同じことだと苦笑と微笑が浮かぶ。
描かれる平和で楽しい生活に魅せられる。この描写だけでも十二
分に読む価値はあり。

さらに入り組む「小さなおうち」の人々の心理、思い。忍び寄る
戦争の足音とともに、加速していく歪みとせつなさがたまらない。

タキがノートに書き残した物語という設定である。読みやすい。
読み始めるとよどみなく、止まらない。読んでよかったと胸を
張って言える小説。













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2010年07月23日

天国旅行







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天国旅行   三浦 しをん
¥ 1,470   新潮社 (2010/03)

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死、霊、前世といったものをテーマにした短編集。しみじみもの、
ユーモアあふれるものと多彩。

・森の奥

富山明男五十四歳。樹海にて首吊り自殺を試みるが失敗。木に枝
がなかったので、幹にロープを吊ったのが失敗の原因だった。老
母の介護、仕事の行き詰まり。現実から逃げ出したかったのだ。

その彼の前に若い男が現れる。森を歩く装備を携えた彼は、コン
パスだけで樹海を突っ切る演習をしているのだという。

若い男は青木と名乗った。富山はついていく。何も持っていない
富山は、すっかり青木の世話になってしまった。食べるもの、暖
を取る方法、青木は手馴れているようだ。

夜空を見上げた富山は、そこに夏の大三角が輝いているのを見る。
富山は星が好きだった。告げると、青木は「ベガ、デネブ、アル
タイル」とその星の名をつぶやいた。

青木は父親がなかった。母親は男に捨てられたのだ。母を捨てた
男は、星に詳しかった。

富山はつい、自分がそうなのかも知れぬと考えてしまう。彼のよ
うな息子があったら、それはそれで楽しいのではないか。

やがて食料は尽きた。二人で死のうと考える。青木もまた、身寄
りがいない寂しさから死を選ぼうとしていた。青木は母も亡くし
ていたのだ。

目を覚ましたとき、富山は人が通る道のそばにいた。青木の姿は
ない。しかし彼ならきっと生きていると思う。

・君は夜

理紗の夢は実にリアルだ。夢の中では理沙はお吉という娘で、恋
仲の小平と仲むつまじく暮らしていた。二人は江戸時代の人間で
あるらしい。

二人は貧しい。残飯を拾って食べ、夜逃げも何度かした。お吉の
手はあかぎれだらけ。しかし幸せであるようだった。小平を心か
ら好いているのが理紗にはわかる。

昼と夜、理紗は二つの生活を持っているようなものだ。学校で勉
教している普通の学生の昼と、愛する小平と体を重ねる夜の暮ら
し。理沙は小さいころからセックスを知っていた。お吉がそれを
していたからだ。

理紗は悔やんでいることがある。夢の中で、二人が心中するのを
止められないことだ。だが不思議なことに、お吉が最後に見るも
のは、怖い顔で覆いかぶさってくる小平の顔だ。小平は出世のた
め、お吉を裏切ったようだった。

理紗は成長し、家を出て恋人を作る。たいていふられて終わる。
尽くす姿が重いと言われる。

就職してから、不倫の恋に落ちてしまった。相手は調子のいい男
で、ほのめかすばかりで離婚はしようとはしない。だが理沙は彼
を追って仕事をやめ、ずっとそばにいることにした。

あるとき、結婚を迫る。妻との離婚を迫る。男は憤った。理紗が
最後に見たものは、怖い顔でおおいかぶさってくる男の顔。


楽しく読める。粒ぞろい。さすがさすがの短編集。暑い夏にはお
すすめの一冊。













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2010年05月28日

横道世之介







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横道世之介  吉田 修一
¥ 1,680  毎日新聞社 (2009/9/16)

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横道世之介は18歳。長崎の港町で生まれ育った。大学進学で上京
した、彼の一年間を描く物語。80年代を描いているので、当時学
生だった方には懐かしい思いがあるかも。

「新宿駅東口の駅前広場をふらふらと歩いてくる若者がいる。ふ
らふらしているのは体調が悪いわけではなく、肩にかけた鞄が重
いかららしい」

これが書き出しの一文。上京したばかりの世之介の描写だが、目
線の遠さに違和感のようなものを感じはしないか。

実はこの物語、20年後、つまり現在から過去を振り返るという形
式になっている。回想録であるわけだ。

そのため、登場人物たちのその後の人生が折に触れて語られる。
エピソードはどれもリアルだ。するとなぜか、80年代の日本のお
おらかさ、コミカルさ、世之介の朴訥さ、人の良さが際立って感
じられてくる。

いい時代だった。いい人がいた。夢物語に浮かれる楽しさと、そ
れから覚めた切なさが味わえる物語だった。

さて、世之介は東京にやってきた。新入生が7千人もいる大学の学
生になったのだ。下宿は東久留米の安宿である。

入学式で仲良くなった倉持と、サンバサークルに入ることになった。
世之介のクラスメイト、阿久津唯も一緒だ。

世之介はサークルの先輩、石田の紹介でホテルのボーイのアルバイ
トを始めた。世之介は2千円のハンバーガーを部屋に運んで行く。
1万円のチップをくれる客もいて、世之介には驚くことばかりだ。

長崎から一緒に東京に出てきた小倉は、マスコミ同好会に入ってい
た。ダブルのスーツを着こなして、業界人みたいに手帳を忙しく
操っている。パーティ券を売りさばき、テレビ番組のオーディショ
ンの人集めまでやっているようだ。

世之介は免許を取りに行くことになった。そこで知り合った祥子と
いう女の子は、信じられないくらいのお嬢さんだった。

祥子はなぜか世之介を気に入って、夏の帰省についてくる。突然の
女の子の訪問に、彼女を妊娠させたりしていないだろうなと、両親
は世之介に迫った。

海辺を散歩していた世之介と祥子は、海岸に流れ着いたボートピー
プルに出会う。ぼろぼろになった女の人から、子供を託された世之
介たちだが、なすこともなく、無力感にさいなまれることになる。

世之介は、暑い夏の間同級生の加藤の下宿に入り浸っている。クー
ラーがあるからだ。世之介は田舎の子。のんきで、邪気のないずう
ずうしさを持っているのだった。

加藤は女の子に興味が持てないのだという。男性が好きなのだ。世
之介はあっさりそれを受け入れる。彼の親戚にも同じような人たち
がいて、今は元気に美容院で働いている。加藤は20年後、愛する男
性と同じ家で暮らしている。

サンバサークルの倉持と阿久津は、いつの間にか男女の仲になって
いた。阿久津が妊娠してしまい、二人は学校を辞めることに。不動
産屋に就職した倉持は、社長のお下がりのスーツを着て世之介に会
いに来た。

世之介は、祥子と付き合うことになった。祥子はお嬢さんで、やる
ことなすこと桁外れである。デートにも、黒塗りのセダンでお母様
と一緒に現れるような子なのである。

その頃世之介は、知り合いになった男性から古いライカを一台も
らっていた。祥子にすすめられる中、世之介は日常の小さな出来事
にレンズを向け始める。

ここから大事なネタばれです。読みたくない方はごめんなさい。


20年後の祥子は、国連職員としてアフリカのキャンプで働いている。
世之介と見た、ボートピープルの人たちに心を動かされたのだ。

日本に戻ってきた祥子は、ふとしたきっかけで世之介の母に連絡を
とる。そして、世之介が死んだことを知らされる。

世之介は、電車のホームに落ちた女性を救うため、韓国人留学生の
若者と一緒に飛び込んでいた。

祥子のもとに送られてきた封筒には、世之介が初めて撮った写真が
入っていた。

どれも、希望を撮った写真だった。日常にあるささいな優しさ、未
来への希望。そうだ、と祥子は思う。世之介はYesの人だった。世
の中のすべてを肯定する人だったのだと。


長崎生まれの世之介が、「東京に帰る」と考えるところが印象的
だった。そうやって、みんな自分の居場所を作っていくんだよね。

ストレスなく読める。












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2010年05月05日

1Q84 BOOK 3






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1Q84 BOOK 3  村上春樹
¥ 1,995  新潮社 (2010/4/16)

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ネタばれです。これから読む予定の方は、本日はここでメールを
閉じてください。ごめんなさい。

BOOK3ということなので、恐縮ですが、BOOK1と2を取り上げた過去
ログを張っておきます。何かの助けになれば幸いです。
http://wadainohon.seesaa.net/article/123118303.html
http://wadainohon.seesaa.net/article/123187250.html

舞台は1984年の日本。

過去の二作では、天吾と青豆、二人の物語が交互に語られていた。
今回は牛河という男の物語が、その合間合間に挿入されている。

前作で、新興宗教団体「さきがけ」の教祖を殺害した青豆。彼女
は銃口を口に入れ、自殺を試みた。だがひきがねをひかず、老婦
人の用意した隠れ家に身を潜めている。

「さきがけ」の信者に見つかったら、残酷な制裁を受けるだろう。
安全な場所へ移るべきなのだが、青豆はその隠れ家を出ることが
できずにいた。

青豆は子供の頃、親の信じる宗教のせいでいじめられていた。た
だ一人かばってくれた男の子、天吾の成長した姿を偶然に発見し
たのだ。天吾は隠れ家の前の公園で、滑り台の上に上って月を見
ていた。

やがて青豆は、自分が身ごもっていることに気づいた。思い当た
ることは何もないというのに。青豆はこの子供が、天吾の子であ
ると確信を抱く。

一方天吾は、入院している父親のそばにつききりになった。隠れ
家の青豆が毎日、彼の姿を探して窓際に座っていることも知らず、
天吾は父の病院のある町で数日を過ごす。

本作でその存在がクローズアップされる男、牛河は元弁護士であ
る。裏社会に生きる彼は、「さきがけ」から青豆を探す仕事を請
け負っていた。

牛河は醜い男だ。優秀で、美しい家族の中でいつも一人ぼっちだっ
た。彼は天吾と青豆の関係を知り、天吾の周りを見張ることに決
める。

天吾と青豆は、小学校の同級生だった。それ以来一度も会っては
いない。だが、互いに家族に恵まれなかった二人は、固い絆で結
ばれていたのだった。

牛河にはわかる。二人の孤独。自立せざるを得なかった、辛い子
供たちの気持ち。それは、牛河自身がずっと身の内に抱いてきた
感情であった。

天吾が戻ってくる。後をつけた牛河は、夜空に月が二つ並んでい
るのを目にした。

月が二つある世界。それは1984年ではなく、1Q84年。天吾と青豆、
二人に関わるうちに、牛河もいつしか1Q84の世界に入り込んでし
まったのだ。

驚愕のあまり、牛河に一瞬の油断が生まれる。彼の存在は、青豆
に知られることになってしまった。

危険は排除せねば。牛河は、青豆の仲間の手によって殺されてし
まう。「さきがけ」はあわてた。

彼らは、青豆を殺さないと申し出てきた。教祖を殺した青豆への
復讐を、断念するというのだ。

「さきがけ」は、リトルピープルなる人たちの言葉を聞く者の存
在を求めていた。それこそが教義であるのだから。

青豆は逃げることを決意した。「さきがけ」が、お腹の子を狙っ
ているのに気がついたからだ。

青豆は仲間の手を借りて、天吾にめぐり合うことができた。妊娠
していることを告げると、天吾も青豆の腹にいるのは自分の子だ
と素直に信じた。

青豆が身ごもったのは、天吾がふかえりと交わった日である。ふ
かえりは媒体だったのだ。あの日、ふかえりの中に放った精は、
青豆の体に行き着いたのだと天吾は思った。

二人は、もう一度、正常な世界、1984年に戻ろうとする。

青豆は天吾の手をとって、1Q84の入り口になった首都高へ向かう。
来たときと逆に階段を登り、とうとう二人は1984へ戻ってくる。


BOOK3では、青豆と天吾のすれ違いとめぐり合いが多く語られてい
た。ラブストーリーだわね。離れ離れになっていたのに、忘れる
ことができなかった二人。ロマンチックなのね。

実はこれ、個人的には少しばかり残念な思いがする展開なんだよ
なあ。宗教の絡んだ、壮大なミステリという感じで始まったのに、
結局安直なラブストーリーになるのかい、という。

しかしながら、ロマンチックな修飾、ハラハラさせる展開で飽き
ずに読めることは確か。楽しく読めるお話ではある。

1Q84の世界では、リトルピープルなる人たちが、世界の真実を人
間たちに語っているようだ。それを聞く者が、新興宗教団体「さ
きがけ」を導いている。

リトルピープルは空気さなぎなるものを作り、人の分身を生みだ
すことができる。それらはマザ、ドウタと呼ばれているのだけど、
その謎に深く踏み込むのはBOOK4ということになるようだ。













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2010年04月23日

天地明察







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天地明察  冲方 丁
¥ 1,890  角川書店(角川グループパブリッシング) (2009/12/1)

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「全国書店員が選んだいちばん! 売りたい本」、本屋大賞受賞作
品。へえ、こんな時代小説があるんだと、目からウロコ。

実在の人物を描いた物語。主人公は渋川春海。会津藩の侍である。
二刀を持つよう指示されてはいるが、春海は武芸の人ではない。

春海の仕事は碁を打つことだ。将軍の前で碁を披露する、安井家
の嫡男である。

だが春海は、碁に没頭することができなかった。彼が愛するのは
算術である。

江戸時代は算術が盛んであった。庶民にも学ぶものが多く、問題
を考え、神社に絵馬として奉納するのことが流行していた。絵馬
として張り出されたそれに、誰かが答えをつけるのが娯楽のひと
つだったのである。

ある日晴海は、出かけた神社でえんという女性に出会う。またそ
の場所で、難問をいとも簡単に解いた男がいるいことも知らされ
た。男の名は関孝和。

江戸の町には、人々が集って算術を競う場があった。なんと、え
んの実家がそれであるという。春海はそこに問題を張り出し、関
に挑むが、それは病問という類の問題であった。

答えがない問いのことだ。勢い込むあまり、解けない問題を出題
してしまった。恥じ入る春海に、ある大きな使命が下される。

春海は、日本測量の度に出ることになる。各地域の星を眺め、そ
こから緯度を割り出すという作業だ。その旅の中で、春海は当時
使われていた暦に、誤りがあることを理解する。

宣命暦と言った。800年前、中国からやってきた暦だ。その暦には
ずれが見られた。月蝕の日にちを、当てることができなかった。

春海に目をかける者たちがいた。彼の算術家の才能を、汲んでい
た人たちがいたのだ。

水戸光圀もその一人である。水戸黄門として、周遊譚が語り伝え
られる人物であるが、苛烈な性格の持ち主だった。同時に、好奇
心にあふれる知的な人物である。

会津藩主、保科正之も春海を高く評価していた。彼らの後押しを
受けて、春海は新しい暦の開発に取りかかることになる。

春海も妻を迎えていた。妻の名はこと。病弱な娘であった。こと
を京に置いたままで、春海は会津に戻り新暦の開発に取りかかる。

さまざまな人の尽力を得、星を読み、算術を駆使し、とうとう春
海は授時暦なる暦を作り上げる。天下の宣命暦と競うため、春海
は「月蝕を言い当てる勝負」を挑むことにした。

宣言したのは三度。一度目は勝った。二度目も勝った。見事月蝕
を言い当てたのだ。だが三度目、起こらぬと予想した月蝕が、起
きてしまったのだ。

失意の春海は、そのときようやく関孝和と知己を得る。算術の天
才として、常に仰ぎ見ていた関。彼は春海の授時暦を、病問であ
ると看破した。

苦心した授時暦に誤りがある。春海は絶望した。これより数年、
春海は苦難に直面し続けることになる。妻を亡くしたのもそのひ
とつ、悲しい出来事であった。

もう一度、新暦に挑もうと思った。春海のために尽力した人たち
のためにも、春海は立ち上がらねばならなかった。それに、春海
には碁打ちの仕事があったが、彼はどうあっても碁に人生を見出
すことができなかったのである。

えんにも再会した。町の算術道場の娘だ。一度は嫁いだ彼女も、
夫を亡くしていたのだという。再婚した春海は、えんの支えを受
けて、中国の暦を日本に当てはめる作業を始めた。

緯度を基に作られた暦である。日本の緯度と照らし合わせる必要
がある。えんには、10年待てと言い聞かせていた。

ようやく、新暦はできた。春海はこれに、大和暦という名を与え
た。

しかし、朝廷は許そうとはしない。暦をつかさどるのは天地を支
配することである。時を操ることである。

春海は京に上り、陰陽師の家に弟子入りする。さまざまな人の縁
を頼り、とうとう改暦が行われることになった。


算術の問題が解かれたとき、出題者は「明察」との賞賛を回答者
に送る。正解であるという意味だ。

タイトルの「天地明察」には、このような意味がある。

人は星を読み、星に惑う。だが星々が正しいのである。天にこそ
正解はある。天地こそ、明察であるのだ。


アマゾンのレビューがすばらしい。この物語の中では、渋川春海
は地動説を是としていたとされている。だが、時代背景を考える
とそれは間違いであるらしい。

知識がない私は楽しく読んだが、知っている人には喉にささった
小骨のように、気になるものだっただろう。だがその指摘自体が、
算術道場の知的勝負のようなもので、この小説を読む人の賢さが
察せられて楽しかった。

著者の沖方丁(うぶかた・とう)さんは漫画原作、アニメ制作に
も携わった方であるらしい。毛色の違う作品に挑まれた姿も素敵。


群像劇としても楽しめる。算術を競う人たちの姿、和算の祖とな
る天才、関孝和の人となり、春海を支える学者たちの生き方。ど
れも生き生きとして描かれ、飽きることがなかった。

力作。















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2010年04月12日

恋愛小説ふいんき語り








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恋愛小説ふいんき語り 麻野 一哉、飯田 和敏、米光 一成
¥ 1,680   ポプラ社 (2007/11)

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週末の間、メルマガに書こうと思って読んだ本が二冊とも2007年
だったのでびっくりして死にそうになった。日付を見るのを、二
冊分も間違えていたなんて…。

というわけで、面白かった方をとりあえず。(まさに自転車操業
なんです、ごめんなさい)

しかし、楽しかったよ。新旧さまざまな恋愛小説20作を、ゲーム
作家の三人が読んでいくというもの。対談形式。

恋愛って、やってる本人にはものすごく大変ですばらしくて甘美
で残酷であるわけなんだけど、はたから見てる他人には「あー、
アホらし」でしかないことが往々にしてあるよね。

そんな感じの目線で、名作をばっさばっさと切り捨てる。(もち
ろん、ほめてるのもあるよ)。そして、本業のゲーム作家として、
小説がゲームとして成り立つかどうかを議論している。恋愛小説
がまったく別物として存在し始めるこの瞬間が、最高に面白い。

彼らが一番衝撃を受けたのは、瀬戸内寂聴の「夏の光」

主人公の知子は、売れない作家の慎吾と付き合っている。慎吾は
妻子持ち。しかし知子にも、涼太という若い愛人がいて、バラン
スはうまく保っているつもりだ。

これは、著者である瀬戸内寂聴さんの実体験を基にしているらし
い。発表されたエッセイと、小説が同時期に書かれていることか
ら、進行中の関係を小説に書いたものと推測される。

ゲーム作家、男性三人は知子のみなぎるエネルギーに圧倒される。
知子は現実には満足できない女だ。常にドラマを求めている。翻
弄される涼太だけにはなりたくないと、三人は戦々恐々。

対して、村山由佳の「天使の卵」には、その神をも恐れぬ王道ぶ
りに手放しの賞賛を与えている。

「ロールプレイングゲームだと、ドラゴンにさらわれたお姫様を
勇者が助けるっつーのが王道じゃない。そういう意味での王道」

父親の死もだしにして、リーバイスに白のTシャツを着て、天使
の卵はとにかく、はずかしいくらいの恋愛王道小説だ。

恩田陸、「夜のピクニック」で、彼らが一番感動したのは、登場
人物の名前にひとつひとつルビがふってあることだ。人の名前っ
て、読み方が微妙に違うことがある。その辺りの配慮がよい。

もちろん内容にも話は及んでいて、三人とも、このお話にはよい
印象を持っているようだ。この物語の「歩行祭」は実際にあるイ
ベントらしい。

読み終えると歩きたくなるね、という感想で一致。

そんでもって、恋愛小説といえばこれでしょう。「恋空」、美嘉。

「小説じゃないね。駄菓子屋行って、寿司握ってくれって言うよ
うなもの」

彼氏の親友の名、ノゾムがソドムに見えたというのが面白かった。

その場の気持ちで書いているから、登場人物の性格がころころ変
わる。言葉を知らないのが丸わかり、読むときは深く考えてはい
けない。

こんな恋空を、ゲームにするとどうなるか。

対象は携帯ユーザー。辞書のボキャブラリーが極端に少なく、制
限の中で小説を書かなければならない。レトリックを使うとエラー
が出る。ヘルプが出てきて「そろそろレイプだよ」

最後は山田詠美の「無銭優雅」。表現がきれい、文章がすごいと
ベタ褒めでした。

ちなみに、無銭優雅で得た教訓は、「料理のできる男はモテる」と
いうことのようです。



















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posted by momo at 09:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 話題の小説系 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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